みやぎグリーンウォーカー
第3回 東北緑化環境保全株式会社
持続可能な社会づくりや地球環境への意識は高まり、循環型社会への取り組みが着実に進んでいます。環境を「はかる」ことは安心安全の最初の一歩であり基本です。では、その環境への安心安全はどのようにして計ればいいのでしょう。
今回は、「環境をはかる」ことを業としている東北緑化環境保全株式会社・測定分析事業部へお伺いしました。インタビューを受けていただいたのは、多賀城市にある測定分析事業部の本田博康さんと算用子淳夫さんです。
東北緑化環境保全の事業内容は、造園・土木工事などの「造園土木」、動植物や大気・水などの自然環境を調査する「環境調査」、有害物質などの計測を行う「測定分析」を中心とした、環境保全全般です。今回お伺いした測定分析事業部の事業所では「測定分析」を専門に行っており、ダイオキシンやアスベストといった『話題の』物質をはじめとして様々な化学物質を測定する装置・施設を見学させて頂きました。「目に見えないミクロな世界の有害物質を専門技術で測定している」というお話に、環境問題へクリエイティブに取り組む姿勢を感じました。有害物質は私たちの身近な問題ですが、実際にどうやって測定しているのでしょうか。知っていそうで意外と知らない、無くてはならない大事な仕事です。

工場をクリーンにするために ―有害物質の測定
東北緑化環境保全は昭和47年に創業されましたが、当初の主な仕事は「東北電力」の発電施設に関係するものだったそうです。発電施設の緑化工事や排出物質の測定を行うことで、周囲の環境へ与える悪影響を最小限に抑えようとするのです。工場がもたらす悪影響は、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動・地盤沈下・悪臭の「典型七公害」が中心で、創業当時は社会的な大問題となっていました。そして、昭和42年には「公害対策基本法」が制定され、企業に排出規制が義務づけられます。すると、科学的に信頼できる排出データとその証明が必要となり、測定分析事業部の出番となったのです。
はじめは東北電力関連の発電施設が中心でしたが、現在では様々な自治体や企業から依頼を受けています。また、測定分析事業部でISO14001やISO9001を取得してからは、「ISO14001・9001を取得するために自主測定を行いたい」といった、積極的な依頼も増えているそうです。「『環境のことなら東北緑化環境保全』と幅広く頼られるように技術を磨き続けたい」という姿勢です。
目に見えない有害物質を測定する
社会的に問題となっているダイオキシンやアスベストに関しては、特に力を入れて設備をそろえたとのこと。アスベストについては話題となった時期には東北緑化環境保全に調査依頼が殺到したそうです。厳重な設備にもかかわらず、快く見学させていただけました。
ダイオキシンの分析室はガラスで仕切られています。分析室内の気圧を下げることで、外部に有害物質が漏れないようにしているとのこと。ダイオキシンの分析には危険も伴うので、高い技術と厳重な設備を持っていないと許可が下りないそうです。宮城県でできるのは東北緑化環境保全だけとのこと。
分析機器は非常に高価で、一台一億円するものもあるとか。ダイオキシンはピコグラム(1兆分の1グラム)の世界で計測するので、非常に精密です。
これはアスベスト分析装置で、X線を利用して結晶構造を解析します。アスベストが問題になった時期は24時間態勢でフル稼働していたそうです。
こちらではダイオキシンやアスベストの他にも、重金属(カドミウム・ヒ素・鉛・水銀など)・有機化合物(農薬など)といった様々な有害物質を精密に計測することができます。
しかし分析は、試料(調査現場の土や空気など)を機械に入れるだけではできません。複雑な前処理や分離過程を手作業で行わないといけません。化学実験を毎回繰り返すようなものなので、手間と時間と技術が必要です。いずれにせよ、最新の設備と化学などの専門的な技術が必要な作業です。
自社に対する「エコロジー」
環境改善を扱う仕事であっても、測定分析事業部では有害物質を出しているので、有害物質を含んだ試料や、分析に用いる有害な薬品は、なるべく負荷の小さなかたちで適切に処理しています。
例えば、試料を化学的に処理する際に有害なガスが発生する場合があります。その有害ガスを吸引するのがダクトです。作業者の体を汚染しないことはもちろん、集められたガスは屋上の処理装置で処理されてから排出されます。さらに、処理済み排気などに残留する有害物質も、法定基準よりも更に厳しい自主基準を設け、安全性を常にチェックしています。
排水や試料・薬品、ゴミについても、細かく分別され適正に処理されています。また、分析に使用する薬品類も厳重に管理され、「化学分析のエコロジー」を実践していると言えます。薬品の使用にあたって活躍しているのは、自社で開発した薬品管理支援システム"IASO"です。IASOはコンピュータとバーコードと電子天秤をリンクさせ、薬品を、「いつ」「誰が」「どこの」「何を」「何のために」「どれくらい」使用したかを記録管理します。今ではIASOは商品化され全国の大学や企業でも使われています。
日常的な部分の取り組みも忘れていません。空調を抑えるなどして節電を徹底し、紙・プラスチックの再資源化(RPF化)も行っています。また、現在では99%以上の文具・事務用品・用紙などでグリーン購入対応商品を使用しています。
「事業内容が環境に関係しているだけに、率先して環境対策をすることは当然」だそうです。環境改善を事業とする会社にとって、自分の行動にも配慮することは会社に対する信用にもつながります。また、環境汚染のミクロな最前線に立つ人間として、特に敏感な感覚を持っているのでしょうか。日本で「環境」が初めて意識された時期からたずさわってきただけに、「環境に対する意識が全体的に変わっている」ことも肌で実感しているそうです。
環境事業のプロフェッショナルとして
環境調査や測定は、高度な専門知識が要求される分野です。森林の生態系調査の事業では、専門の調査員が一ヶ月山篭もり、といったこともあります。学者や職人のような領域の仕事で、測定分析などについても同じ事が言えます。このような専門技術を社会に還元していくことが自分たちの仕事である、と考えています。
また、時代によって要請される内容は変化します。当初はppm(0.000n%)単位の濃度測定だったのが、いつしかppb(0.000000n%)になり、そして現在ではppt(0.000000000n%)の精度が要求されるようになりました。測定を依頼される物質の種類も増えてきましたし、これからも増えていきます。それに応えるため、技術の修得と設備への投資は怠れません。ダイオキシンにしても、分析設備が高価なうえ、前処理も難しく多くの人手がかかるそうです。しかし、「あの物質は無理、その調査はうちではできない、などと言っていたら、頼ってもらえなくなる」、だから新しい方法や技術を積極的に導入し続けているそうです。環境問題と関わり続ける会社として、環境事業の内容も自社の環境配慮も常に敏感でありたい、という雰囲気が感じられました。
■ 感想
「法的規制も汚染防止技術も無かった30〜40年前と比べて、現在の日本の自然環境はずいぶんとましになった。」という話をよく聞きます。今のように改善される中で、測定技術などの環境科学は大きな役割を果たしたのでしょう。汚染は「目に見えない」段階に達して大規模公害が下火になっても、東北緑化環境保全さんはさらにミクロな問題に取り組んでいます。一方、僕らは「酷かった頃の日本」を知らない世代ですので、工場などの大型施設に関係するような重長厚大型の環境問題は意識されにくいと思います。しかし、有効なアクションを起こすためには、科学と環境問題のつながりを正しく知ることが必要なのではないでしょうか。
環境問題にある程度の興味を持つ人でも、いつも自分が口にする水・食物・空気に、どのような有害物質がどれくらい含まれているのか、詳しく把握している人は少ないと思います。ある産地の野菜からダイオキシンが検出されたことが一時期話題になり、買い控えが起きたことがありました。しかし、ダイオキシンや農薬などの有害物質がどのような毒性を持っていて、どのように測定され、どのように規制されるのか、ほとんどの人は詳しく知らないでしょう。僕自身も、それほど詳しくは知りません。計量できるようになった有害物質のデータを有効に生かすためには、私たちも知らなければいけないことがあるのでは、と思います。
(吉良洋輔)
私が子供の頃は、車は正にブーブーと排気ガスを出し、車道の近くは何となく煙かったような気がします。また、嘘かまことか、排水規制のなかった頃の広瀬川では、洗濯どきになると川上からブクブクと泡立った洗濯排水が流れてきたという話を聞いたことがあります。それに比べると、現在はまわりの空気や水が汚れているかどうか一見して分かりにくいのではないかと思います。それどころか、数千種類もあるという有害な化学物質の中には、目に見えないほど微小だというだけでなく、無味無臭で、私たちには汚染が判断できないような物質も多いという話も聞いたことがあり、恐ろしく思います。
そのような「気づけない汚染」を見張り、陰ながら私たちの安全と安心を支えてくれているのが、今回お伺いした東北緑化環境保全・測定分析事業部さんのお仕事なのだと感じました。お話を聞き、測定機器を見せていただいて改めて感じますが、現在のニーズを満たすほどの精度の高い分析をするためには、人的にも機器的にも高い技術力が必要です。
また、汚染物質の排出規制は厳しくなっていますが、規制以前に汚染されてしまった土壌や水源の問題もありますし、アスベストのように安全だと思われていたものが規制されることになるかもしれません。そして、安全性のはっきりしない新しい化学物質がどんどん生み出されています。このような問題に対処するために、測定技術は必要不可欠ですし、そこで求められる精度はますます高くなるだろうと思います。今回の取材で、そのように先鋭化されていく技術が活躍する環境保全の現場を垣間見たような気がします。
(丸山浩司)
取材メンバー自己紹介
丸山浩司
東北大学文学部倫理学専修三年
仙台は三年目ですが、過ごしやすい気候といろいろな人と話せる環境が気に入っています。環境問題に対しては、持続可能という言葉に特に興味があります。
吉良洋輔
東北大学文学部行動科学専修二年
九州の大分出身ですが、東北の自然もすぐに好きになりました。環境と社会の関係について興味があります。


